修羅とアシェー
そもそもアシェーとは、ヨルバ語で「霊的な力」を表わす言葉だ。これはバイーア
で「カンドンブレ」と呼ばれる、アフリカ起源の宗教に由来する。この宗教は、リオ
あたりでは「マクンバ」と呼ばれることもあるそうだ。ハイチのヴードゥー教や、
キューバのサン=テリアなども、ほとんど同じものと見てよいだろう。要するに、
奴隷として大量に連行された人々が命がけで子孫に伝えた文化が、旧植民地---主に
サトウキビのプランテーションがあった地域---に、形を変えて生き延びているの
である。
「命がけ」というのは、決して誇張ではない。ごく最近まで、カンドンブレ(ヴー
ドゥー、サン=テリアも同様)は異教として弾圧され続けてきた。いや、今でも偏見を
持っている人は北米を中心に少なくない。日本も、弾圧してきた側の文化が伝来した
ために「キリスト教が正義で、ヴードゥー教は悪魔信仰だ」等という誤った認識を
持っている人がいるようだ。
少なくとも、南北アメリカ大陸の歴史を参照する限り、悪魔的な行いを繰り返して
きたのはキリスト教信者であり、キリスト教徒たちの無慈悲な弾圧によって虐げられ
た黒人たちに人間としての救いを与えたのが、カンドンブレ(ヴードゥー、サン=
テリアも同様)だという図式が成り立つ。
カンドンブレの儀式では音楽が重要な役割を果たす。さまざまなオリシャを迎える
ために、それぞれ複雑なリズムを刻み、それが人々を陶酔に導く。人々はそのリズム
に合わせてステップを踏み、肩や腰を動かす。その動きによって呼吸が特定のパター
ンを示すようになる。心地よいリズムが大脳の働きに作用して、陶酔と覚醒が同時に
訪れる。意識が朦朧としてくる一方で、聴覚で捉えたリズムが直接運動神経を刺激し
て筋肉たちが勝手に踊り始める。やがて、光が強まってきて、ドンドンという太鼓の
音しか感じられなくなってくる。光が強まったと感じるのは、きっと、瞳孔が開くか
らだろう。そのような身体的な変容は、容易に特定の精神状態を導く。失神すること
は珍しくないし、オリシャが憑移して別人格に変わってしまうこともある。
アフロ=カリビアン音楽やアフロ=ブラジリアン音楽が複雑なリズムを自在に使い
こなしているのは、こうして伝えられたリズム感に由来するものだ。
to be continued....
