AXE ZANMAI

2001-03-23

ブラジル音楽・アシェーとは

   

 アシェー音楽と総称されるものの定義は、なかなか難しい。
バイーア色の強い音楽に貼られたレッテルであることは間違いないのであるが、サン
バやサルサのようにリズムによって分類されるわけではないし、楽器編成による特徴
づけが可能なわけでもない。雑誌等で「アシェー」と紹介される歌手やバンドが結高ワちまちだったりするのが現状なのである。
 「そもそもアシェーとは・・・」などという議論は別項に譲るとして、ここでは、
具体的なバンドやミュージシャンの名前に即して、筆者が「アシェー音楽らしい」と
感じるものを紹介する。独断と偏見に満ちている点は、ご容赦願いたい。

 アシェー音楽について語る前に、アシェー音楽に近接するものを紹介しておこう。

1.ブロッコ・アフロについて
 アシェー音楽と関係が深く、アシェー音楽に多大な影響を与えたとはいえ、
アシェー音楽とは一線を画している存在として、最初に「ブロッコ・アフロ」
の存在を語っておかねばならない。具体的には、
 *フィーリョス=ヂ=ガンヂー  Filhos de Ghandi
 *イレ=アイエ         Ile Aiye
 *ムゼンザ           Muzenza
 *バダウェ           Badaue
 *マレー=ヂ=バレー      Male de Bale
 *アラ=ケトゥ         Araketu
 *オロドゥン          Olodum
等を指す。これらはすべて商業的なバンドではなく、アフリカ系住民の地域的結合体
であり、カルナヴァルのチーム名でもある。地域の住民にとっては誇りであり、憩い
の場であり、NGO的な役割も果たす。

 最も古い「フィーリョス=ヂ=ガンヂー」はインドのマハトマ・ガンジーのそっく
りさんをシンボルにしてインド風の衣装を身にまとうのだが、これは、かつて黒人た
ちが団結する自由を認められなかったが故の苦肉の策であり、また、ガンジーの非沫ヘ主義に共感してのことである。アゴゴーで刻まれる独特のリズムが聴こえてきたら、
街に飛び出しみよう。きっとそこには、真っ白な生地に鮮やかな青でデザインされた
衣装を身にまとったたくさんの「ガンヂーの息子たち」が大河のように行進している
はずだ。

 歴史の古さと構成員の人数ではガンヂーに一歩及ばないものの、「イレ=アイエ」
は流行に媚びないポリシーの高潔さ、演奏技術の高さ、カリスマ性において最も輝い
ているブロッコ・アフロである。赤/黒/黄/白の四つのシンボルカラーとアフリカ的
イメージのデザインで作られた衣装も、抜群にかっこいい。日本で買えるCDが三枚
あり、いずれも素晴らしい作品だ。

 「バダウェ」や「マレー=ヂ=バレー」も、伝統もあるしプロのミュージシャンか
らも敬愛されているブロッコである。98年の大晦日にバーハの大通りで「バダウェ」
の生演奏とダンスが披露されたとき、幸運にも居合わせた筆者は「これこそがバイー
アの神髄」と大感激した。いわゆる「アシェー音楽」よりも、ずっと深くて濃いので
ある。アフロ色の強い彼らの活動に触れたければ、カルナヴァルの時期にバイーアを
訪れほかはないだろう。「Afros e Afoxes da Bahia」というコンピレーションの
CDが出ているそうだが、残念なことにまだ手に入れていない。

 「アラ=ケトゥ」は、ペリペリ地区を根拠地とするブロッコ・アフロなのだが、
ポップ化が進んで、アシェー音楽との区別がつかないほどだ。しかし、事務所を商業
地区であるバーハに移した後もペリペリ地区での社会活動を継続しているらしいので、
ここではブロッコ・アフロに分類しておく。

 ネギーニョ=ド=サンバをリーダーに迎えて「サンバ=ヘギ」を提唱し、一躍バイ
ーア音楽の隆盛に貢献した「オロドゥン」も、元々はペロウリーニョ地区に生まれた
ブロッコ・アフロだ。
 この地区は、昔奴隷の処刑場だったという広場を持つ。日曜日の夜、オロドゥンの
公開練習を聴くために群衆がその広場を埋め尽くした。この界隈は、かつては治安が
悪いために観光客が立ち寄るべきではないとされていたが、オロドゥンの活躍に加え
て、石畳の美しい街並が観光資源として認知されるようになり、現在ではツーリスト
・ポリスが巡回する、比較的安全な区域と見なされている(それでも、ここで盗難に
遭うことは珍しくない) 。現在は、毎週火曜日の夜にテレーザ・バチスタ広場で有料
コンサートを行なっていて、この地区の名物となっている。
 また、彼らはポール=サイモンやマイケル=ジャクソンと共演したことでも有名で、
海外公演もさかんに行なっている。今ではアフロ=ブラジリアン音楽の代名詞的存在
となっていて、Tシャツや帽子など「Olodum」のロゴ入りグッズはバイーア土産の
定番と言える。
 こちらもネギーニョが抜けた後は、ポップバンドに変貌してしまった観がある。
(筆者は、無責任なリスナーとして彼らの音楽的な傾向の変化を残念に思ってはいる
が、バンドの収入を財源としてNGO的な活躍をみせている彼らに対して、その商業
主義的な路線を批判するつもりは毛頭ない)

 上記のほかにも、地域ごとに有名無名のたくさんのブロッコが存在していて、バイ
ーアのカルナヴァルの足元を、そしてバイーア音楽の基盤を、しっかりと支えている。


2.MPBについて
 Musica Popular Brasileira(ブラジルポピュラー音楽)の略。これは、バイーア
音楽に限定されるものではないが、バイーア発の潮流はブラジル音楽全体に強い影
響力を持ち続けており、MPBの主役たちの多くがバイーア出身なのである。代蕪Iなミュージシャンとして、
 *カエターノ=ヴェローゾ  Caetano Veloso
 *ジルベルト=ジル     Gilberto Gil
 *ガル=コスタ       Gal Costa
の三人を挙げよう。この三人がバイーアの生んだミュージシャンであり、「トロピ
カリズモ」の立役者であることは説明するまでもない。もちろん、MPBに区分さ
れるのはバイーア出身者だけではなく、
 *マリーザ=モンチ     Marisa Monte
 *ジョルジ=ベン      Jorge Ben
 *ジャヴァン        Javan
 *ミルトン=ナシメント   Milton Nasciment
 *シコ=セーザル      Chico Cesar
など、様々なバックグラウンドを持つ全国区のミュージシャンたちである。
 ただ、シコ=セーザルは別個に「ノルヂスチ」という分類を設けるべきだろうか、
ヴィルジニア=ホドリゲスもここに入るのだろうか、等の疑問は残る。
 アシェー音楽全盛時代を牽引したカルリーニョス・ブラウンをMPBアーチストに
分類する人もいる。してみると、バイーアの色がどんなに強くても、ブラジル全土に
「我らの音楽」と認知されたものはMBPというカテゴリーに入れられてしまう、と
いう法則が成り立つのかもしれない。個人的には、ブラウンはアシェ?音楽の中核で
あり、最前衛に位置していると思うのだが。


3.パゴーヂについて
 簡単に言うと、「何も考えずにひたすら腰振って踊るのに適したお気楽サンバ」で
ある。何を持ってパゴーヂと定義づけるべきかはわからないが、筆者の耳にはすべて
同じリズムに聞こえてしまう。歌詞も気楽でおどけたものが多いようだ。
(使用される楽器が、持ち運びしやすい小振りのものであるという特徴があるらしい)
 パゴーヂを演奏するのはバイーアのミュージシャンに限らないが、バイーアの大衆
はこの軽快なリズムと腰振りダンスが異様なぐらいに好きだ。このリズムがかかると、
みんな条件反射的にお尻をブンブン振りまわしてすごい迫力で踊りまくる。
 バイーア出身のパゴーヂ・バンドの代表格は、
 *エ=オ=チャン     E O Tchan
 *テハ=サンバ      Terra Samba
 *ボム=バランソ     Bom Balanco
 *アルモニア=ド=サンバ Harmonia do Samba
あたりだろう。こういったバンドも「アシェ?音楽」に括られることが多く、CDや
ビデオ・クリップのシリーズ「AXE BAHIA」では、むしろこちらが幅をきかせている
みたいに見える。だが、筆者にとっては「パゴーヂはあくまでもパゴーヂ」である。
よって、アシェー音楽とは別のカテゴリーに放り込むこととする。


4.アシェー音楽の真髄
 さて、いよいよアシェー音楽の紹介である。分類の基準としては、
  (1)ブロッコ・アフロよりもポップで現代的
  (2)バイーア色が強すぎてMPBとして認知されない
    (実際、リオやミナスのCD屋にはあまり置いていなかった)
  (3)パゴーヂほどに軽くはない
といったところか。
 同じバンドでも次々にヴォーカルが変わったりバンドのコンセプトそのものが劇的
に変わったりするバイーアのことなので、バンドや歌手の名前で特定することすら難
しいのである。アシェーの女王ダニエラ=メルクリはラップやバラードも歌いこなす
し、二代目アシェー・クイーンとしての将来を嘱望されたシモーネ=モレーノは、最
近は伝統回帰してトラディショナルなサンバを歌っている。
 なにしろ、多芸多才なミュージシャンが多い街で、しかもそれぞれが個性を競って
いるので、共通点を見つけ出すことが難しい。強いていえば、パーカッション指向の
強さとリズムの多彩さが特徴と言えるだろう。
 ここでは、「アシェー音楽=バイーア色豊かなポップ音楽」というふうに、無難に
まとめておく。
 アシェー音楽の範囲は、年代的に括ることが可能だろう。つまり、80年代の終わり
頃から90年代にかけて隆盛を極め、最近「下火になってきた」と言われている、一連
の作品群のことである。
 それ以前にも、バイーア発のパーカッシシブな音楽は存在しつづけてきた。しか
し、「アシェー」の名を冠するようになったのは、1988年の奴隷解放百周年を契機
とする一連のムーブメントと相まって発展し、ダニエラ=メルクリの「Swing da
Cor」の全国的ヒットによってブラジル中に注目されてからのことだ。
 これ以降「アシェー」の名で呼ばれた一連の音楽活動は、「トロピカリスモ第二世
代」というふうに命名されてもかまわなかったと思う。だが、ようやく社会の表面に
現れはじめたアフリカ系文化の自己主張を込めて、ヨルバ語の「アシェー」が採用さ
れたのではないたろうか。
(ちなみにアシェーとはヨルバ語で「聖なる力」を意味しており、アフロ系宗教の
カンドンブレに由来している。その意味では、本来はブロッコ・アフロこそが
「アシェー」の名を冠せられるべきであったと思う。)
 近年、「下火になってきた」という風評があり、これはアシェー音楽ファンである
筆者にはつらい指摘である。しかし、冷静に判断すれば「アシェー音楽」はある時代
を象徴する音楽ムーブメントの総称であり、確かにその役割を終えつつあると認め
ざるを得ない。
 だが、アシェー音楽はこれで終わりではないはずだ。今回のムーブメントに触発さ
れた若い才能たちが、いずれ「トロピカリスモ第三世代」として台頭してくることは
間違いないし、その日が来ることを心から信じ、楽しみにしている。




・・・・
 とにかく、アシェ?音楽を知りたい方は、次のミュージシャンたちのCDを聴いて
ください。ここから先は完全に筆者の好みで選んであります。正直なところ、筆者が
特によく聴くCDばかり挙げました。
 アルバム名や曲名の日本語訳については、別項を参照してください。



*カルリーニョス・ブラウン  Carlinhos Brown
 チンバラーダ総帥にして、多くのアシェー音楽の仕掛人である。ハジケまくるエネ
ルギー、破天荒な演奏技術、数々のユニークな演出が自己制御の難しい天才肌を連想
させるが、本人は静謐で、誠実で、実に謙虚な人である。自らのソロ・アルバムは二
枚しか出していないが、実に数多くのミュージシャンに曲を提供している。「風雲
児」と呼ばれた彼も、今ではすっかり重鎮だ。思想家、哲学者、社会活動家としての
側面も注目に値する。
 詳しくは、「アシェー三昧」の三月七日の欄をご覧ください。

1st album:「alfagamabejizade」(邦題「バイーアの空の下で」)
 宇宙を丸ごと飲み込んだブラウンが、通常の言語では表現しきれない宇宙のヴァイ
ブレーションをそのままリズムにぶつけて生み落とした作品。マコンデの彫像よりも
自在に跳ねまくるリズム、チベットの砂曼陀羅よりも絶妙なバランス感覚。とにか
く、濃く、深く、熱く、美しい。圧倒的なまでに我々を魅了する。

2nd album:「omelete man」(同「オムレツ・マン」)
 前作に比べると、やや肩の力が抜けた作品。前作を、純度100%のコカインのごと
きアッパー系のドラッグとすれば、こちらには「Hawaii e eu」等のダウナー系の作
品も混ぜられており、初めて耳にする時のキックはそんなに強くない。しかし、中毒
性はむしろこちらの方が高いかもしれない。

3rd album:「BAHIA DO MUNDO ---mito e verdade---」
 待ってました、第三弾!ジャケットは、なぜか吊り目のブラウン。トレードマークの
サングラスの下は、普段は意外なほど温和な目つきなのに、少々コワモテの涼やかな
顔になっている。
 曲の方は"遅効性の劇薬"といったところか。ブラウンの曲にしてはひねりが少なくて
素直な曲調が多いように感じたのだが、数回耳にするうちにしっかりとハマってしまう。
軽快で、自在で、奥が深い。さすがはブラウン、裏切らない。
 これを聴く限り、アシェーはまだまだ衰えず、と胸を撫で下ろすのであった。


-------
*ダニエラ=メルクリ   Daniela Mercuri
 アシェーの女王として君臨し続けること十数年、その輝きはさらに増すばかりであ
る。エネルギッシュに歌い、踊り、すべての聴衆に歓喜を振りまく。街の将来につい
て熱く語り、若手ミュージシャンを発掘し、ブロッコ・アフロへの敬愛を歌いつづけ
る。どんなに賞賛されても決しておごらず、"歌とダンスが大好きなバイアーナ"とい
う原点を踏み外さない。その笑顔は限りなく魅力的である。
 詳しくは、「アシェー三昧」の三月五日の欄をご覧ください。

1st album:「Daniela Mercury」
 アシェー音楽の名を高らしめた記念碑的名盤。やや荒削りだが、まっすぐで力強
い。1曲目が、前述の「Swing da Cor」。ブロッコ・アフロ「ムゼンザ」を讃えた
歌でもある。

2nd album:「O Cant da Cidade」
 さらにパワーアップした二枚目の作品。個人的には、イレ=アイエに捧げた7曲目
が特にお勧め。

3rd album「Musica de Rua」
  こちらも名曲ぞろい。ラップあり、バラードありと、その魅力をしなやかに広げ
ている。チンバラーダを讃えた9曲目やイレ=アイエに捧げた12曲目なども、バイー
アの音楽状況を表わしていて面白い。

4th album:「Feijao com Arros」
 アカペラで始まる1曲目「Nobre Vagabund」、母性を感じさせる8曲目「A
primeira Vista」など、新境地を切り拓いた作品。もちろん、ブラウン提供の2曲目
「Rapunzel」など、ダンサブルな曲も盛り沢山。ジャケットもカッコイイ。

New album:「Sol da Liberdade」
 歌詞カードに収められた写真が、どれもすごく良い。自作の1曲目や、5曲めの
カエターノのカバー(曲名はずばり「Axe Axe」)など、興味を引く曲は枚挙に暇が
ないが、なんと言ってもオリシャ<カンドンブレの神々>に捧げた8曲目が圧巻であ
る。イレ=アイエに捧げた14曲目も面白い。

  [ダニエラには、ほかにもベスト盤やライブ版があるが、ここでは割愛する]


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*チンバラーダ   Timbalada
 ブラウンが私財を投じて育て上げた打楽器軍団。カンヂアルを地元とする彼らは、
ブロッコ=アフロとして出発しても不思議ではなかったが、総帥ブラウンの頭脳に
は、既成の枠組におさまらない斬新なコンセプトが渦巻いていたの。看板ボーカル
が次々と独立し、メンバーも音楽的指向性も大きく様変わりした。しかし、ぐりぐり
ボディ・ペインティングは今も健在である。
 詳しくは、「アシェー三昧」の三月三日の欄をご覧ください。

1st album:「Timbalada」 (邦題「ストリートパワーの逆襲」)
 多くを語るまい。語り尽くせないから。プリミティブでアバンギャルド。変幻自在
のリズム感。ブラジル全土を、そして世界をあっと言わせた衝撃的デビュー作。とに
かく聴いてください。ジャケットが秀逸。

2nd album:「Cada Cabeca e' Um Mundo」 (邦題「頭の数だけある世界」)
 こちらもユニークなジャケット。1st albumに収まり切らなかったエネルギーを、
そのままぶつけた作品。6曲めの「Camisinha」は「コンドームをつけてエイズを防
ごう」と歌っている。

3rd album:「Andei Road」
 1st、2ndほどの衝撃を感じなかったのは、更なる刺激を求めてしまうファンのわが
ままだったのだろうか。しっとりした感じの曲が多い。1曲目「Mimar Voce」、
8曲目「Margarida Perfumada」など、じっくり聴き込むとよい曲がたくさんある
のだが、総じて物足りなく感じたことは正直に告白しておこう。

4th album:「Mineral」
 5曲目「Agua Mineral」は路上で水を売る歌。貧しかったブラウンは、子供の頃
それで家計を助けたという。この曲がかかると、バイーア衆は文字通りの「ブラウン
運動」を繰りひろげる。6曲目「Carimbolada Soul」も独特の味わいがあって聞き
逃せない。
 カリスマ的人気を誇ったシェシェウのボーカルが聴けるのは、この作品まで。

5th album:「Mae de Samba」
 進化し、深化したチンバラーダの真骨頂。この一枚をベストに推す人も多い。神話
的な美しさを感じさせるジャケットも秀逸。海の女神イエマンジャーを讃える1曲目
から、エンジン全開で聴かせてくれる。3曲目「Ai」、8曲目「cordao de Bloco」、
9曲目「Mae de Samba」、14曲め「A Latinha」等、たくさんの曲がカルナヴァル
定番ソングとして定着した。他の曲もすべて粒ぞろいである。

6th album:「...pense minha cor...」
 女性メイン・ボーカルのパトリシアが抜け新しく3人のボーカルが参加。3曲目の
"Zorra"は、2000年のカルナヴァルで最も多く歌われた曲だ。7曲目「Plugado
na Viola」を歌っているのは、なんとアキラという名の日本人。日本語の台詞まで
ついている。(アキラはその後独立した)

  [チンバラーダには、ほかにもリミックス盤やベスト盤、ライブ版等があるが、
  ここでは割愛する]


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*ブラガダー   Bragada
1st album:「Bragada」
 キレの良いホーンが特徴的。ノリの良い曲を満載しており、ユニークなファッショ
ンとも相俟って、話題を集めた。ポスト・チンバラーダと期待されたが、2nd album
以降は伸び悩んでいる。バイーアで生き残るのは大変なのである。
 その後、リーダーだったトニー・モラが抜けて「Braga boys」という名前に変わり、
活動は継続しているらしい。2001年のカルナヴァルに参加した人から、そのトニーが
チンバラーダのアバダーを着て、一般人にまぎれてブロコの中を歩いていた」という
話を聞いた。
 一般人が華々しくデビューするのも、逆にスターが一般人に戻るのも、垣根が低い
ということだろうか。


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*シモーネ=モレーノ   Simone Moreno
1st album:「Simone Moreno」
 95年の大阪公演を観に行った人には説明無用だろう。歌唱力は抜群だし、美しく、
優雅で、愛くるしい個性、踊りも笑顔も圧倒的な魅力であった。筆者はこの時、魂を
抜かれた。

2nd album:「Morena」
 一作目よりもはるかに充実した内容の作品。優美さと、怒涛の勢いが両立してい
る。6曲めの「Irene」、11曲目のメドレー等は、アシェー音楽の枠に収まらない
卓越した実力を感じさせる。このころまでダニエラの次のアシェー・クイーン候補と
思われていたのだが、ペペウ・ゴメスとの破局後は苦しんでいるようだ。
 3rd album以降は、路線を変えて伝統的なサンバを中心に歌っている。


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*ヂダー   Dida Banda Feminina
1st album:「A Mulher Gera o Mundo」
 オロドゥンを復興させ、Samba=Reggaeのムーブメントを育て上げたネギ?ニョ=
ド=サンバが、次に手がけたのが女性だけで編成されたこのバンド。私財を投げ打っ
て立ち上げた「DIDA音楽学校」の教え子たちが演奏している。
 ネギーニョは、自身の露出度はそんなに高くないが、間違いなくバイーア音楽の
屋台骨を支えるひとりである。有名ミュージシャンへたくさんの曲を提供している
ことやオロドゥン、ヂダーの成功だけがそうさせたのではない。
 彼の心は「慈愛」で満ちている。彼はいわば、バイーアの精神的支柱なのである。
 トロピカリスモの「カエターノ/ジルベルト/ガル=コスタ」のあとを受け継いだの
が、アシェー音楽の「ブラウン/ネギーニョ/ダニエラ」なのだと言っておこう。



このほかにも、
 *ネッチーニョ         Netinho
 *マルガレッチ=メネーゼス   Margareth Menezes
 *イヴェッチ=サンガロ     Ivete Sangaro(バンダ=エヴァから独立)
等のソロ歌手や、
 *シェイロ=ヂ=アモール    Cheiro de Amor
 *アサ=ヂ=アギア       Asa de Aguia
 *バンダ=エヴァ        Banda Eva
 *バンダ=ベイジョ       Banda Beijo
 *バンダ=メル         Banda Mel
 *シクレッチ=コン=バナナ   Chiclete com Banana
等のバンドを挙げなければならないだろう。
(ボラッシャ=マリアはどうなったのだろう?誰か教えてください)
 彼らについては断片的な知識はあるものの、CDを聴き込んでいないので、ここで
は割愛させていただく。
 あと、ブラウンの作品が大半を占めている「ブラジレイロ」や、いくつものバンド
が競作した「バイーア・コンスピレイション」「Bahia Black」などのCDも、これ
まで紹介したもの以上に注目に値する。くわしく解説するだけの知識がないことを
残念に思う。
 幾つかのバントのヒット曲を集めたCDやビデオクリップ集の「AXE Bahia97」
「同98」「同99」「同2000」という定番シリーズもある。このシリーズは手軽に
楽しめるので、初心者にも馴染みやすいだろう。

 最後に、注目すべき若手の作品として、
 *アズ=メニーナス   As Meninas
  「Xi Bombom」
 *ウンビリカル   Umbillical
  「Umbillical」
の二つを推しておく。いずれも2000年デビューのバンドである。

 前者は下火と言われるアシェー音楽の中で、去年最も健闘したバンドである。若く
て美しい女性たちを結集し、お洒落な振り付けで踊るさまはキャンディーズ=ピンク
レディー路線と勘違いされかねないが、間違いなく実力派である。一度、野外で行な
われた無料ライブに参加したことがあるが、バイーア定番ソングに頼らず持ち歌だけ
で大観衆を熱狂させていたのには感心した。ボーカルの力量もさることながら、サイ
ドの演奏者たちの腕の確かさにも舌を巻いた。3月にカルナヴァル・デビューした時
にはさほど注目されていなかったが、瞬く間に全国区に駆け上がり、ブームを巻き起
こした。ちびっ子ファンが多いのも特徴的。
 早々と2nd album「tapa aqui, descobre ali」を発表したが、これは「前作の
出がらし」という感が強く、拙速だったのではないかと心配である。チンバウ担当の
Titiを個人的に応援しているので、なんとか踏み止まってほしいのだが。
 
 後者は現地でさえまだまだ無名でありCDを探すのが困難な状況であるが、豊かな
可能性を感じさせる。ブラウンの申し子として一つの分野を確立するだけの力量はあ
るだろう。将来が楽しみである。5年後に残っているのは、むしろこちらのほうでは
ないだろうか。



・・・・・・・
 最後に、関西在住で、ここで紹介したCDを購入したい方のために、アメリカ村の
ワールド・ミュージック専門店
     「プランテーション」(tel:06-4704-5660)
をお勧めする。
 店鋪は小規模だが、アジア、アフリカ、南米等の音源に関してはタワーレコードや
HMVなどの大型店よりも充実している。店長の丸橋さんは事情通だし非常に親切な
方なので、相談に乗ってもらうとよい。頼めば試聴させてもらえるかもしれない。
 筆者の音源供給源はここである。拙文に関心を寄せてくださった方は、ぜひ一度
足を運んでみてください。

 ついでに、関連書籍もいくつか紹介しておこう。まずは、板垣真理子さんの写真
集 「Carnaval in Black」(三五館/1800円)と、紀行ルポルタージュ「バイーア
・ブラック」(トラベルジャーナル/2000円)。どちらもバイーアの魅力が満載の、
至宝のごとき作品だ。
 昨年SHINKO MUSICから出版された「ブラジリアン・サウンド」は、詳細かつ
広汎な情報が満載である。2400円。1995年に発売された「ブラジリアン・ミュ
ージック」と、その続編の「ブラジリアン・ミュージック2001」中原仁編(音楽
之友社/ともに1900円)も外せない。
 「月刊ラティーナ」がもっとも確実で信頼できる定期刊行物であることは、言う
までもない。よりマイナーな雑誌「AMBOS MUNDOS」も面白そうだ。6号に掲載
されたブラウンのインタビュー記事は、ブラウンの魅力を的確に捉えていたと思う。
この記事を担当した宇賀神朋子(うがじん・ともこ)さんというフォトグラファー兼
ライターは信頼できる。今後、彼女が発信する情報は要チェックだ。
 ポルトガル語が読める人なら「A TRAMA DOS TAMBORES」がベストだろう。
副題は「A MUSICA AFRO-POP DE SALVADOR」。ポル語初心者の筆者には到底
読みこなせないが、写真とキャプションを見るだけでもわくわくする。著者はGoli
Guerreiroという人で、"editora 34" という出版社から出ている。日本で買えるか
どうかはわからない。


2001年3月23日

written by "AXE Junkie"






2001-03-07

より詳しく バンド名、アルバム名、曲名の解説

 アシェー音楽に関連する曲名やバンド名は基本的にはポルトガル語だが、時おり
ヨルバ語(ナイジェリアのヨルバ地方の言語)が混ざっていることもある。いずれも、
日本では馴染みが少ない言語だ。そのせいで、曲名やバンド名を覚えるのも決して
楽ではない。
 ここでは、別項の「アシェー音楽とは」の文章の中で詳しく触れられなかった
固有名詞の解説を試みる。
 (フォントの都合でローマ字の綴りが正式なポルトガル語と一致していません。
  しかも筆者はポルトガル語の勉強を始めたばかりで、意味がわからないものが
  多数あります。間違いもあるでしょうが、どうかご寛恕ください。指摘メール
  を送っていただければ、とてもありがたいです)
 
 アシェーとは「霊的な力」を表わすヨルバ語だ。これはバイーアで「カンドンブレ」
と呼ばれる、アフリカ起源の宗教に由来する。カンドンブレとともに伝えられたのが
ヨルバ語であり、同時にアシェー音楽の根幹をなすさまざまなリズムなのである。
 (カンドンブレに関する詳しい情報は、修羅とアシェーをご参照ください)
 ヨルバ語については、どうやって調べたらよいのかさえ分からない。イレ=アイエ
(Ile Aiye)が「生命の家」を意味するヨルバ語であること、オロドゥン(Olodum)が
カンドンブレの至上神・オロドゥマレーにちなんだ命名であることは、いろいろな
ところで紹介されているので間違いないだろう。たぶん、ムゼンザ(Muzenza)、
バダウェ(Badaue)、マレー=ヂ=バレー(Male de Bale)、アラケトゥ(Araketu)も、
ヨルバ語に由来する命名だと思う。
 ブロッコ・アフロ(bloco Afro)という言葉に比べると、宗教的結社のニュアンスが
感じられる「アフォシェ(Afoxe)」という言葉も、たぶん、ヨルバ語だろう。
 ヨルバ語については、これ以上のことはわからない。
 以下、ポルトガル語関係のネーミングについて、知っている限りのことをまとめて
みる。

=グループ名編=

*フィーリョス=ヂ=ガンヂー:Filhos de Ghandi:ガンヂーの息子たち
  良く似た名前のフィーリャス=ヂ=オシュン(Filhas de Oxun)というブロッコ・
  アフロもあるが、こちらはカンドンブレの女神オシュンの娘たちという意味。

*エ=オ=チャン:E O Tchan:??? 一説によると、H関係の俗語らしい

*テハ=サンバ:Terra Samba:サンバの大地

*ボム=バランソ:Bom Balanco:直訳すると「良い(bom)振動(balanco)」

*アルモニア=ド=サンバ:Harmonia do Samba:サンバのハーモニー
  ボーカルのXandyが、エ=オ=チャンのフロントダンサーだったカーラ・ペレス
  と付き合っていることでも有名。

*シェイロ=ヂ=アモール:Cheiro de Amor:
  「愛(amor)の香り(cheiro)」というロマンチックなネーミング。
  2000年のカルナヴァルでは日本の法被スタイルのアバダーを採用していたが、
  そこにはひらがなで「あいのかおり」と正しく書かれていた。

*アサ=ヂ=アギア:Asa de Aguia:鷲(aguia)の翼(asa)
  こういうかっこつけたネーミングは、バイーアではけっこう珍しい。日本では
  知名度が低いが、ブラジル大衆には圧倒的人気。2000-2001年のrevellion
  (年越し)イベントでも、サンパウロのパウリスタ大通りを埋め尽くした。

*シクレッチ=コン=バナナ:Chiclete com Banana:
  chicleteは「チューインガム」なので、「バナナ入りのチューインガム」と
  いう意味になる。アサ=ヂ=アギアと同様日本にはあまり紹介されないが、
  現地での人気はすごい。

*バンダ=エヴァ:Banda Eva:
  Evaは「アダムとイブ」のイブのこと。bandaは言うまでもなくバンドのこと。
  バイーアのバントでは、通常はボーカルが独立した場合はバンドが生き残って
  独立したほうのボーカルは売れないものなのに、ここから独立したイヴェッチ
  ・サンガ?ロが大成功したのを横目に新たな女性ボーカルを迎えてCDを出し
  たが、どうやら苦戦しているようだ。

*バンダ=ベイジョ:Banda Beijo:
  beijoは「kiss」のこと。女性ボーカルのジルは長身の美女で、アルバムの
  タイトルが「Meu nome e Gil」(我が名はジル)とつけられるほどの人気者。

*バンダ=メル:Banda Mel:
  melは「蜂蜜」。95年には日本各地を公演してまわった。

*チンバラーダ:Timbalada:
  原形は、太鼓の一種のtimbal(チンバウ)。これに"-ar"をつけて動詞化して
  timbalarに変え、更に"-da"をつけて名詞化するとtimbaladaになる。
  つまり「チンバウ叩き」ということである。ブラウンがカンヂアル地区の若者を
  糾合して作り上げた打楽器集団のひとつ。別働隊として、高速移動的打楽器集団
  Zarabi(ザラビ)や廃棄物再生子供打楽器集団Lactomia(ラクトミア)、女性バンド
  Bolacha Maria(ボラシャ=マリア)等が知られている。
  ちなみに一人の奏者としての「チンバウ叩き」はtimbaleiroとなる。

*ブラガダー:Bragada:
  チンバラーダと同じ理屈で分析すると、原形は、「半ズボン」または「ウクレレ」
  の意味のbragaのはずだが、真相は不明。誰か教えて。

*ヂダー:Dida :
  たぶん、Didatico(教育的)に由来するものだろう。一度ネギーニョに確認しな
  くちゃと思うのだが、いつも忘れてしまう。
  正式な名前は、Dida Banda Feminina。女性バンドということをはっきり打ち
  出している。子供たちの学校も運営しており、音楽や演劇を指導している。
  学校の一階では美容院も経営している。
  毎週木曜日に、テレーザ・バチスタ広場でライブをやっている。個人的には、
  同じ会場で火曜日にライブを行なっているオロドゥンよりもクオリティの高い
  ライブであると感じている。

*アズ=メニーナス:As Meninas:
  asは定冠詞。meninaは「女の子」で、-sがつくと複数形になる。つまり、
  「女の子たち」。英語で言えば「The Girls」。なんのひねりもない。
  なんという安直なネーミングだろう。

*ウンビリカル:Umbillical:
  「へその緒」という意味の、人を喰ったネーミングである。ブラウンが
  つけたのかもしれない。


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=アルバム名・曲名編=


*カルリーニョス・ブラウン:Carlinhos Brown のアルバムから・・・
 (ちなみにこれは芸名で、ジェームズ・ブラウンにあやかったという)

 1st albumの「alfagamabejizade」は、アルファベッドを教えてくれる
人のことらしい。子供の頃貧しくて学校に通えなかったブラウンは、彼と同
様に教育を受ける余裕のない人々のことをいつも思いやっている。
 邦題「バイーアの空の下で」は原題とは無関係だが、とてもいいネーミング
だと思う。どの曲も、歌詞があまりに自由奔放で訳詞を読んでもチンプンカン
プンだが、詮索しないで丸ごと受け取ると、とっても気持ちが良い。

 2nd albumの「omelete man」は、ずばりそのまま「オムレツ・マン」。
ジャケットに卵焼きの絵が描いてあるが、なにゆえオムレツなのかは不明。
5曲目「Soul by Soul」、6曲目「Water My Girl」、7曲目「Tribal
United Dance」、11曲目「Busy Man」、12曲目「Cold Heart」など、
ピジン・イングリッシュを導入して言語的世界を掻き混ぜ、同時にバイーア
に居ながら世界を包み込むというスタンスを見せている。

 3rd albumの「BAHIA DO MUNDO --mito e verdade--」は、「世界
のバイーア」という意味だろう。副題のほうは、「伝説と真実」といった
ところか。8曲めの「shalom」の冒頭でアザーン(イスラムの祈り)らしき
ものが使われているのが注意を引くが、題名も歌詞も意味がよくわからない。
いずりにせよ、ブラウンらしい「汎世界性」を感じさせる。



*ダニエラ=メルクリ:Daniela Mercuri のアルバムから・・・
 (Mercuriは、水銀や水星を意味する「マーキュリー」のことらしい)

 1st albumは、そのまま「Daniela Mercury」というタイトルで出ている。
というか、最初はタイトルなしのアルバムでデビュー、ということがよくある
ようだ。それが売れたら、2ndからはそれなりのアルバム名をつけるわけだ。
  (ソロでもバンドでも、こういうケースは珍しくない。チンバラーダ、
   ブラガダー、ウンビリカル、シモーネ・モレーノなど、みんなそう)
 1曲目の「Swing da Cor」は、直訳すると「色のスウィング」。これを
「黒のスイング」と訳しているのを見たことがあるが、つまりこの「色」は
有色人種というニュアンスを込めたものと思われる。

 2nd albumの「O Cant da Cidade」は、「街(cidade)の歌(cant)」。
このアルバム名は1曲目の曲名でもある。「街」とはもちろん、サルバドール市
(通称バイーア)のことだ。力強い声で
  A cor dessa cidade sou eu   この街の色は、私
  A canto dessa cidade e meu  この街の歌は、私のもの
と歌い上げる。恋愛ごとを歌った曲は世界中にあるだろう。しかし、街への愛が
これほど熱く、これほど繰り返し歌われる場所は、他にない。そしてダニエラと
バイーアほどそれが似つかわしい関係も、他にない。

 3rd albumの「Musica de Rua」は、「ストリート(rua)の音楽(musica)」。
路上で音楽に出会い、路上で演奏を学び、路上で踊る人々。バイーアにぴったり
のタイトルだ(このCDでも1曲目の曲名をアルバム名にしている)。ダニエラが
いかにこの街と不可分な存在であるか、よくわかる。
 9曲目「Domingo no Candeal」は、ファベイラ(貧民街)ゆえに裕福な白人層
から敬遠されがちなCandeal(カンヂアル)という地区で、毎週日曜日(domingo)に
    ”貧民街を蔑視するな。聴きたきゃ、ウチへ来い”
というスタンスでチンバラーダが行なっているライブを讃えた歌。
 12曲目「Por Amor ao Ile」は「イレーへの愛(amor)のために」という意味で、
ずばり、イレ=アイエに捧げた歌。

 4th albumの「Feijao com Arros」は「フェイジョン豆と米(arroz)」という、
バイーア料理の基本的かつ象徴的な食材をタイトルにした作品。日本盤のタイトル
が「黒と白」とつけられたのは、ジャケット写真の印象からだろう。
 1曲目「Nobre Vagabund」の「Vagabund」は、宮本武蔵をリメイクした人気
漫画 「バカボンド」と同じ意味。Nobreは英語のnobleと同じ。つまり、「高貴な
放浪者」ということ。
 2曲目「Rapunzel」の由来は不明だが、"Julieta e Romeu"という歌詞
に出てくるところをみると「ロミオとジュリエット」になぞらえた恋愛歌だろう。
 8曲目「A Primeira Vista」は直訳では「初めて見ること」というふうな意味に
なるが、もっと深い意味があるのかもしれない。

 最新アルバム「Sol da Liberdade」は、「自由(liberdade)の太陽(sol)」という
意味。ここでも1曲目に入っている自作の曲のタイトルが、そのままアルバム名に
なっている。
 バイーア市内にはLiberdadeという名の地区があり、ここはブラジル中で最も黒人
の居住率が高いことで知られていて、しかもダニエラが敬愛するIle Aiyeの本拠地で
あるから、そういうニュアンスを込めたのかもしれない。
 8曲目「dara」(この単語は辞書に載ってなかった)も自作の曲で、歌詞の中に
「ナナン」「イアンサン」「オシュン」「イエマンジャー」等、オリシャ<カンド
ンブレの神々>の名前がたくさん出てくる。
 このアルバムにボーナス・トラックとして追加された「Como vai voce」は、
しっとりとした大人の歌。「ご機嫌いかが?」という挨拶だ。



*チンバラーダ:Timbaladaのアルバムから・・・
 
 1st albumが「Timbalada」なのは前述の通り。邦題は「ストリート・パワーの
逆襲」となっているが、ストリート育ちのミュージシャンである彼らのポジションを
うまく表わしている。
 2曲目「Toque de Timbareiro」(チンバウ叩きの打撃)を聴けば、ストリートから
世界へ向かっていく彼らの勢いと意気込みが伝わってくるだろう。
 5曲目「Emilio」は、エミリオという男の片思いの歌だが、アカラジェを比喩に
用いていて、ちょっぴりエッチ。ちなみにアカラジェ(acaraje)はバイーアの街角で
良く売られている名物料理。筆者は実物を見て、初めてこの曲の意味が分かった。

 2nd album「Cada Cabeca e' Um Mundo」は、「それぞれの頭が一つの世界」と
いう意味。邦題の「頭の数だけある世界」は、たしかにうまく訳してある。しかし、
スキンヘッドに様々なデザインをペインティングした人々を俯瞰で切り取った斬新な
ジャケットには、原題のほうがふさわしいと思う。
 6曲め「Camisinha」は「camisa(シャツ)」を可愛く表現したものでコンドーム
のこと。バイーアには素敵なデザインのTシャツがたくさん売られていてみやげ物に
ちょうどよいのだが、子供向けの可愛いTシャツを見つけても、縮約形にして「カミ
ジーニャ」なんて言わないように。

 3rd albumの「Andei Road」は「道を歩いた」という意味か。andeiはandar
(歩く)の一人称完全過去形だが、roadのほうは英語。
 1曲目「Mimar Voce」は、「あなた(voce)を愛撫(mimar)する」という意味。
非常にわかりやすい歌詞なので、ポル語を齧ったことがある人は訳してみるといい
だろう。
 8曲目「Margarida Perfumada」は、「香りの良いマーガレット」という意味。
甘く切なくシェシェウが歌う。

 4th albumの「Mineral」は、5曲目「Agua Mineral」(ミネラルウォーター)に
由来するようだ。ブラウンは子供の頃、カンヂアル地区の湧き水を売って歩いていた
らしい。ペットボトル入りのミネラルウォーターを売り歩く現在の子供達の姿が、
少年時代のブラウンと重なって見える。
 6曲目「Carimbolada Soul」の"Soul"はソウルミュージックのことだろ
う。

 5th albumの「Mae de Samba」は、「サンバの母」。 9曲目の曲名でもある。
 8曲目「Cordao de Bloco」のcordaoは「ロープ」という意味もあるが、辞書に
俗語として「カーニバルで騒ぎ回る人の群れ」とあるので、こっちの意味だろう。
blocoは、もちろんブロッコ・アフロのことだろう。あるいは、ロープによって人々
を隔離すること、または、ロープを持った係員のことかもしれない。
 14曲め「A Latinha」については、「アシェー三昧」の三月三日の欄に書いたので、
ここでは省略する。

 6th albumの「...pense minha cor...」は「...私のcorを考えて...」という意味
になるはずだ。"cor"には、色という意味の他に、「言い訳」「心臓」等の
意味があるようだが、このタイトル名と同じ2曲目の歌詞からはよくわからなかった。
 3曲目「Zorra」とは女狐のことらしい。「カーニバルの王はどこだ?」と問い
かける威勢のいい歌だ。
 7曲目「Plugado na Viola」の終わりにアキラがささやく日本語は、
     {懐かしい、やはり心と心の愛は胸の奥で聴くこと}
という、日本語らしくない台詞だ。たぶん、ポルトガル語を直訳したのだろう。



*シモーネ=モレーノ:Simone Moreno は、「褐色のシモーネ」という意味になる。
彼女の褐色の肌とすらりと伸びた手足は、それだけで賛美に値する。

 前述の通り、1st albumは「Simone Moreno」で出ている。1曲目「Mulheres do
mundo」は「世界(mundo)中の女(mulher)たちへ」という、気宇壮大な歌。彼女は、
   eu sou voce   私はあなた
   eu sou Bahia...... 私はバイーア....
と歌ってサマになるんだから、ダニエラと比較されたのも無理はない。
 2曲目にイレー=アイエ、3曲めにオロドゥン、5曲めにムゼンザを、それぞれ歌
詞に折り込んで讃えている。12曲めは黒人奴隷の歴史とカンドンブレの神々、そして
今日のサンバ=ヘギに至るまで、バイーアの姿を歌い上げている。

 2nd albumの「Morena」は、モレーナつまり褐色の肌をした混血女性のことであ
る。バイーアが、いや、ブラジルが産んだ最も美しいものと言われる女性たちのことだ。
ダニエラもイヴェッチも外見はヨーロッパ人に見えるが、シモーネはカフェオレ色の
美しい肌をもつ、典型的なモレーナだ。
 6曲めの「Irene」は、民衆に支持されていたカエターノが軍事政権によって投獄
された時に、獄中で作った歌。イレーニというのは、彼の末の妹の名前だそうだ。
 5曲めの「Sanbae」ではチンバラーダを、11曲目のメドレーではクララ・ヌネスを
カバーしている。



*ブラガダー:Bragadaの1st albumが「Bragada」なのは前述の通り。
 1曲目で「ケブラ!」と叫んでいるのは「壊す」という意味の「quebrar」だろ
う。彼らはライブの時にチェーンソーで火花を散らしつつ金属をぶった切るという
パフォーマンスを演じてみせたそうだ。



*ヂダー:Dida の1st albumの「A Mulher Gera o Mundo」は「女性は世界を産
む」という意味になる。ブックレットには地球を孕んだ女性のイラストがある。



*アズ=メニーナス:As Meninasの1st albumは、「Xi Bombom」。
「Bombom」はお菓子のこと(ウィスキー・ボンボンの「ボンボン」)だろうが、
「Xi」のほうは、よくわからない。
 2nd albumは「tapa aqui, descobre ali」。「aqui」が「ここ」で「ali」が
「あそこ」。「tapar」が「隠す、塞ぐ」という意味で「descobrir」は「覆いを
とる(英語のディスカバーと同じ)」 だから、「ここを隠してあそこを見せろ」とか
いう意味になるのかな。



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 ついでに、いわゆるアシェー音楽の母胎となったブロッコ・アフロのCDについても、
筆者が所有しているものの中からいくつかを簡単に紹介する。


*イレ=アイエ:Ile AiyeのCDタイトルは、いささかややこしい。
 1st albumにも、2nd albumにも、「Canto Negro」と書かれていて、これがタイト
ル名らしい。「黒い聖歌」という意味だ。内容もジャケットのデザインも異なっている
が、なぜ同じ名前がついているのか、不思議だ。ちなみに、筆者は「Black Chant」と
いうタイトルのアルバムを買ったことがあるが、こちらはジャケットのデザインは違う
ものの、1st albumと全く同じ内容だった。
 3rd albumは「25anos」と書かれていて、結成25周年を記念した作品。こちら
は、ダニエラの曲をカバーする等、すこしソフトな仕上がりになってる。


*オロドゥン:Olodum
 人気バンドだけに、たくさんのアルバムやライブ版・ベスト版等があり、全容は把
握していない。ネギーニョ(「黒」という意味のnegroを愛称化したもの、つまり「黒
ちゃん」というようなニュアンスらしい)が率いていたころのアルバム「O Moviment」
(ムーブメント)や、「Florente na Natureza」(自然の中で花盛り)の頃は、
マダガスカルやエチオピア等、しきりにアフリカを題材にして歌っていたようだが、
96年の「Roma Negra」(黒人のローマ/サルバドールのキャッチコピーの一つ)あたり
から、その傾向が見られなくなった。


*アラケトゥ:Araketu
 「Seven Gates」と「Bom Demais」の二枚のCDを持っているが、「Bom Demais」
の5曲目などは、パゴーヂに近いノリだと思う。この軽やかさからはブロッコ・アフロ
特有の重厚さが感じられない。しかし、アシェーバンドの一つと割り切って聴けば、
充分に楽しめるバンドである。勝手に分類しておいて勝手に文句を言うのは筋違い
というものだろう。


*ムゼンザ:Muzenza
 レゲエへの指向性が強いバンドということだが、筆者は「Chegou Quem Faltava」
というCDしか持っておらず、詳しいことはわからない。このアルバムに限っていえ
ば、アラケトゥ同様、かなりポップでとっつきやすいバンドという印象がある。


*フィーリョス=ヂ=ガンヂー:Filhos de Ghandi
 「Coracao de Oxala」というのを一枚持っている。Coracaoは心臓または心で、
Oxalaはオリシャの名前。

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 最後に、ここまで触れることができなかった三名の名前を上げておく。いわゆる
「アシェー」とは別のカテゴリーになるのだろうが、個人的に気に入っているという
だけの理由で紹介したい。

*ダウーヂ:Daude
 バイーア出身らしいが、活動拠点はバイーアではないようだ。外見も、歌の印象も
バイーアっぽいのだが。
 「VEU VAVA-REMIX」と「DAUDE#2」の二枚を持っているが、後者にはブラウン
も参加しており、彼の歌声も聴くことができる。

*ヴィルジニア=ホドリゲス:Virginia Rodorigues
 癒し系の澄んだ歌声。宗教的なイメージの曲のほかにチンバラーダやイレ=アイエも
カバーしているが、まったく違った味わいがある。バイーアの一般市民だったが、カエ
ターノに発掘されたということである。
 まだ「Nos」と「Sol Negro」しか手に入れていないので、現地のCD店で探したの
だが、一枚も見つけられなかった。

*シルビア=トーレス:Silvia Torres
 「Silvia Torres」というCDは、実は5枚目の作品だそうだが、ブラウンの全面
プロデュースによって独特の世界ができあがっている。シルビアは生粋のバイアーナだ
し、 ブラウンが曲を提供したとなれば、思いっきり弾んだアシェー音楽にしあがっても
不思議ではないのだが、アコースティックなサウンドでしっとり聴かせてくれる。去年
4月の "ブラウン in お台場 Live" に参加した人なら理解できると思うが、このアルバム
には静謐なブラウンが息づいている。最後にブラウン自身の手拍子サウンドが入ってい
るのもファンにとっては嬉しい限り。



・・・・以上、2001年3月7日の時点で知っていることを、思い付くままに
書き散らしてみました。また、新しい情報が入れば、そのつど書き改めたいと思い
ます。