<ブラジル音楽・アシェーとは>      

 アシェー音楽と総称されるものの定義は、なかなか難しい。
バイーア色の強い音楽に貼られたレッテルであることは間違いないのであるが、サン
バやサルサのようにリズムによって分類されるわけではないし、楽器編成による特徴
づけが可能なわけでもない。雑誌等で「アシェー」と紹介される歌手やバンドが結構
まちまちだったりするのが現状なのである。
 「そもそもアシェーとは・・・」などという議論は別項に譲るとして、ここでは、
具体的なバンドやミュージシャンの名前に即して、筆者が「アシェー音楽らしい」と
感じるものを紹介する。独断と偏見に満ちている点は、ご容赦願いたい。

 アシェー音楽について語る前に、アシェー音楽に近接するものを紹介しておこう。

1.ブロッコ・アフロについて
 アシェー音楽と関係が深く、アシェー音楽に多大な影響を与えたとはいえ、
アシェー音楽とは一線を画している存在として、最初に「ブロッコ・アフロ」
の存在を語っておかねばならない。具体的には、
 *フィーリョス=ヂ=ガンヂー  Filhos de Ghandi
 *イレ=アイエ         Ile Aiye
 *ムゼンザ           Muzenza
 *バダウェ           Badaue
 *マレー=ヂ=バレー      Male de Bale
 *アラ=ケトゥ         Araketu
 *オロドゥン          Olodum
等を指す。これらはすべて商業的なバンドではなく、アフリカ系住民の地域的結合体
であり、カルナヴァルのチーム名でもある。地域の住民にとっては誇りであり、憩い
の場であり、NGO的な役割も果たす。

 最も古い「フィーリョス=ヂ=ガンヂー」はインドのマハトマ・ガンジーのそっく
りさんをシンボルにしてインド風の衣装を身にまとうのだが、これは、かつて黒人た
ちが団結する自由を認められなかったが故の苦肉の策であり、また、ガンジーの非暴
力主義に共感してのことである。アゴゴーで刻まれる独特のリズムが聴こえてきたら、
街に飛び出しみよう。きっとそこには、真っ白な生地に鮮やかな青でデザインされた
衣装を身にまとったたくさんの「ガンヂーの息子たち」が大河のように行進している
はずだ。

 歴史の古さと構成員の人数ではガンヂーに一歩及ばないものの、「イレ=アイエ」
は流行に媚びないポリシーの高潔さ、演奏技術の高さ、カリスマ性において最も輝い
ているブロッコ・アフロである。赤/黒/黄/白の四つのシンボルカラーとアフリカ的
イメージのデザインで作られた衣装も、抜群にかっこいい。日本で買えるCDが三枚
あり、いずれも素晴らしい作品だ。

 「バダウェ」や「マレー=ヂ=バレー」も、伝統もあるしプロのミュージシャンか
らも敬愛されているブロッコである。98年の大晦日にバーハの大通りで「バダウェ」
の生演奏とダンスが披露されたとき、幸運にも居合わせた筆者は「これこそがバイー
アの神髄」と大感激した。いわゆる「アシェー音楽」よりも、ずっと深くて濃いので
ある。アフロ色の強い彼らの活動に触れたければ、カルナヴァルの時期にバイーアを
訪れほかはないだろう。「Afros e Afoxes da Bahia」というコンピレーションの
CDが出ているそうだが、残念なことにまだ手に入れていない。

 「アラ=ケトゥ」は、ペリペリ地区を根拠地とするブロッコ・アフロなのだが、
ポップ化が進んで、アシェー音楽との区別がつかないほどだ。しかし、事務所を商業
地区であるバーハに移した後もペリペリ地区での社会活動を継続しているらしいので、
ここではブロッコ・アフロに分類しておく。

 ネギーニョ=ド=サンバをリーダーに迎えて「サンバ=ヘギ」を提唱し、一躍バイ
ーア音楽の隆盛に貢献した「オロドゥン」も、元々はペロウリーニョ地区に生まれた
ブロッコ・アフロだ。
 この地区は、昔奴隷の処刑場だったという広場を持つ。日曜日の夜、オロドゥンの
公開練習を聴くために群衆がその広場を埋め尽くした。この界隈は、かつては治安が
悪いために観光客が立ち寄るべきではないとされていたが、オロドゥンの活躍に加え
て、石畳の美しい街並が観光資源として認知されるようになり、現在ではツーリスト
・ポリスが巡回する、比較的安全な区域と見なされている(それでも、ここで盗難に
遭うことは珍しくない) 。現在は、毎週火曜日の夜にテレーザ・バチスタ広場で有料
コンサートを行なっていて、この地区の名物となっている。
 また、彼らはポール=サイモンやマイケル=ジャクソンと共演したことでも有名で、
海外公演もさかんに行なっている。今ではアフロ=ブラジリアン音楽の代名詞的存在
となっていて、Tシャツや帽子など「Olodum」のロゴ入りグッズはバイーア土産の
定番と言える。
 こちらもネギーニョが抜けた後は、ポップバンドに変貌してしまった観がある。
(筆者は、無責任なリスナーとして彼らの音楽的な傾向の変化を残念に思ってはいる
 が、バンドの収入を財源としてNGO的な活躍をみせている彼らに対して、その商業
 主義的な路線を批判するつもりは毛頭ない)

 上記のほかにも、地域ごとに有名無名のたくさんのブロッコが存在していて、バイ
ーアのカルナヴァルの足元を、そしてバイーア音楽の基盤を、しっかりと支えている。


2.MPBについて
 Musica Popular Brasileira(ブラジルポピュラー音楽)の略。これは、バイーア
音楽に限定されるものではないが、バイーア発の潮流はブラジル音楽全体に強い影
響力を持ち続けており、MPBの主役たちの多くがバイーア出身なのである。代表
的なミュージシャンとして、
 *カエターノ=ヴェローゾ  Caetano Veloso
 *ジルベルト=ジル     Gilberto Gil
 *ガル=コスタ       Gal Costa
の三人を挙げよう。この三人がバイーアの生んだミュージシャンであり、「トロピ
カリズモ」の立役者であることは説明するまでもない。もちろん、MPBに区分さ
れるのはバイーア出身者だけではなく、
 *マリーザ=モンチ     Marisa Monte
 *ジョルジ=ベン      Jorge Ben
 *ジャヴァン        Javan
 *ミルトン=ナシメント   Milton Nasciment
 *シコ=セーザル      Chico Cesar
など、様々なバックグラウンドを持つ全国区のミュージシャンたちである。
 ただ、シコ=セーザルは別個に「ノルヂスチ」という分類を設けるべきだろうか、
ヴィルジニア=ホドリゲスもここに入るのだろうか、等の疑問は残る。
 アシェー音楽全盛時代を牽引したカルリーニョス・ブラウンをMPBアーチストに
分類する人もいる。してみると、バイーアの色がどんなに強くても、ブラジル全土に
「我らの音楽」と認知されたものはMBPというカテゴリーに入れられてしまう、と
いう法則が成り立つのかもしれない。個人的には、ブラウンはアシェ−音楽の中核で
あり、最前衛に位置していると思うのだが。


3.パゴーヂについて
 簡単に言うと、「何も考えずにひたすら腰振って踊るのに適したお気楽サンバ」で
ある。何を持ってパゴーヂと定義づけるべきかはわからないが、筆者の耳にはすべて
同じリズムに聞こえてしまう。歌詞も気楽でおどけたものが多いようだ。
(使用される楽器が、持ち運びしやすい小振りのものであるという特徴があるらしい)
 パゴーヂを演奏するのはバイーアのミュージシャンに限らないが、バイーアの大衆
はこの軽快なリズムと腰振りダンスが異様なぐらいに好きだ。このリズムがかかると、
みんな条件反射的にお尻をブンブン振りまわしてすごい迫力で踊りまくる。
 バイーア出身のパゴーヂ・バンドの代表格は、
 *エ=オ=チャン     E O Tchan
 *テハ=サンバ      Terra Samba
 *ボム=バランソ     Bom Balanco
 *アルモニア=ド=サンバ Harmonia do Samba
あたりだろう。こういったバンドも「アシェ−音楽」に括られることが多く、CDや
ビデオ・クリップのシリーズ「AXE BAHIA」では、むしろこちらが幅をきかせている
みたいに見える。だが、筆者にとっては「パゴーヂはあくまでもパゴーヂ」である。
よって、アシェー音楽とは別のカテゴリーに放り込むこととする。


4.アシェー音楽の真髄
 さて、いよいよアシェー音楽の紹介である。分類の基準としては、
  (1)ブロッコ・アフロよりもポップで現代的
  (2)バイーア色が強すぎてMPBとして認知されない
    (実際、リオやミナスのCD屋にはあまり置いていなかった)
  (3)パゴーヂほどに軽くはない
といったところか。
 同じバンドでも次々にヴォーカルが変わったりバンドのコンセプトそのものが劇的
に変わったりするバイーアのことなので、バンドや歌手の名前で特定することすら難
しいのである。アシェーの女王ダニエラ=メルクリはラップやバラードも歌いこなす
し、二代目アシェー・クイーンとしての将来を嘱望されたシモーネ=モレーノは、最
近は伝統回帰してトラディショナルなサンバを歌っている。
 なにしろ、多芸多才なミュージシャンが多い街で、しかもそれぞれが個性を競って
いるので、共通点を見つけ出すことが難しい。強いていえば、パーカッション指向の
強さとリズムの多彩さが特徴と言えるだろう。
 ここでは、「アシェー音楽=バイーア色豊かなポップ音楽」というふうに、無難に
まとめておく。
 アシェー音楽の範囲は、年代的に括ることが可能だろう。つまり、80年代の終わり
頃から90年代にかけて隆盛を極め、最近「下火になってきた」と言われている、一連
の作品群のことである。
 それ以前にも、バイーア発のパーカッシシブな音楽は存在しつづけてきた。しか
し、「アシェー」の名を冠するようになったのは、1988年の奴隷解放百周年を契機
とする一連のムーブメントと相まって発展し、ダニエラ=メルクリの「Swing da 
Cor」の全国的ヒットによってブラジル中に注目されてからのことだ。
 これ以降「アシェー」の名で呼ばれた一連の音楽活動は、「トロピカリスモ第二世
代」というふうに命名されてもかまわなかったと思う。だが、ようやく社会の表面に
現れはじめたアフリカ系文化の自己主張を込めて、ヨルバ語の「アシェー」が採用さ
れたのではないたろうか。
(ちなみにアシェーとはヨルバ語で「聖なる力」を意味しており、アフロ系宗教の
 カンドンブレに由来している。その意味では、本来はブロッコ・アフロこそが
 「アシェー」の名を冠せられるべきであったと思う。)
 近年、「下火になってきた」という風評があり、これはアシェー音楽ファンである
筆者にはつらい指摘である。しかし、冷静に判断すれば「アシェー音楽」はある時代
を象徴する音楽ムーブメントの総称であり、確かにその役割を終えつつあると認め
ざるを得ない。
 だが、アシェー音楽はこれで終わりではないはずだ。今回のムーブメントに触発さ
れた若い才能たちが、いずれ「トロピカリスモ第三世代」として台頭してくることは
間違いないし、その日が来ることを心から信じ、楽しみにしている。




・・・・
 とにかく、アシェ−音楽を知りたい方は、次のミュージシャンたちのCDを聴いて
ください。ここから先は完全に筆者の好みで選んであります。正直なところ、筆者が
特によく聴くCDばかり挙げました。
 アルバム名や曲名の日本語訳については、別項を参照してください。



*カルリーニョス・ブラウン  Carlinhos Brown
 チンバラーダ総帥にして、多くのアシェー音楽の仕掛人である。ハジケまくるエネ
ルギー、破天荒な演奏技術、数々のユニークな演出が自己制御の難しい天才肌を連想
させるが、本人は静謐で、誠実で、実に謙虚な人である。自らのソロ・アルバムは二
枚しか出していないが、実に数多くのミュージシャンに曲を提供している。「風雲
児」と呼ばれた彼も、今ではすっかり重鎮だ。思想家、哲学者、社会活動家としての
側面も注目に値する。
 詳しくは、「アシェー三昧」の三月七日の欄をご覧ください。

1st album:「alfagamabejizade」(邦題「バイーアの空の下で」)
 宇宙を丸ごと飲み込んだブラウンが、通常の言語では表現しきれない宇宙のヴァイ
ブレーションをそのままリズムにぶつけて生み落とした作品。マコンデの彫像よりも
自在に跳ねまくるリズム、チベットの砂曼陀羅よりも絶妙なバランス感覚。とにか
く、濃く、深く、熱く、美しい。圧倒的なまでに我々を魅了する。

2nd album:「omelete man」(同「オムレツ・マン」)
 前作に比べると、やや肩の力が抜けた作品。前作を、純度100%のコカインのごと
きアッパー系のドラッグとすれば、こちらには「Hawaii e eu」等のダウナー系の作
品も混ぜられており、初めて耳にする時のキックはそんなに強くない。しかし、中毒
性はむしろこちらの方が高いかもしれない。

3rd album:「BAHIA DO MUNDO ---mito e verdade---」
 待ってました、第三弾!ジャケットは、なぜか吊り目のブラウン。トレードマークの
サングラスの下は、普段は意外なほど温和な目つきなのに、少々コワモテの涼やかな
顔になっている。
 曲の方は"遅効性の劇薬"といったところか。ブラウンの曲にしてはひねりが少なくて
素直な曲調が多いように感じたのだが、数回耳にするうちにしっかりとハマってしまう。
軽快で、自在で、奥が深い。さすがはブラウン、裏切らない。
 これを聴く限り、アシェーはまだまだ衰えず、と胸を撫で下ろすのであった。


-------
*ダニエラ=メルクリ   Daniela Mercuri
 アシェーの女王として君臨し続けること十数年、その輝きはさらに増すばかりであ
る。エネルギッシュに歌い、踊り、すべての聴衆に歓喜を振りまく。街の将来につい
て熱く語り、若手ミュージシャンを発掘し、ブロッコ・アフロへの敬愛を歌いつづけ
る。どんなに賞賛されても決しておごらず、"歌とダンスが大好きなバイアーナ"とい
う原点を踏み外さない。その笑顔は限りなく魅力的である。
 詳しくは、「アシェー三昧」の三月五日の欄をご覧ください。

1st album:「Daniela Mercury」
 アシェー音楽の名を高らしめた記念碑的名盤。やや荒削りだが、まっすぐで力強
い。1曲目が、前述の「Swing da Cor」。ブロッコ・アフロ「ムゼンザ」を讃えた
歌でもある。

2nd album:「O Cant da Cidade」
 さらにパワーアップした二枚目の作品。個人的には、イレ=アイエに捧げた7曲目
が特にお勧め。

3rd album「Musica de Rua」
  こちらも名曲ぞろい。ラップあり、バラードありと、その魅力をしなやかに広げ
ている。チンバラーダを讃えた9曲目やイレ=アイエに捧げた12曲目なども、バイー
アの音楽状況を表わしていて面白い。

4th album:「Feijao com Arros」
 アカペラで始まる1曲目「Nobre Vagabund」、母性を感じさせる8曲目「A 
primeira Vista」など、新境地を切り拓いた作品。もちろん、ブラウン提供の2曲目
「Rapunzel」など、ダンサブルな曲も盛り沢山。ジャケットもカッコイイ。

New album:「Sol da Liberdade」
 歌詞カードに収められた写真が、どれもすごく良い。自作の1曲目や、5曲めの
カエターノのカバー(曲名はずばり「Axe Axe」)など、興味を引く曲は枚挙に暇が
ないが、なんと言ってもオリシャ<カンドンブレの神々>に捧げた8曲目が圧巻であ
る。イレ=アイエに捧げた14曲目も面白い。

  [ダニエラには、ほかにもベスト盤やライブ版があるが、ここでは割愛する]


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*チンバラーダ   Timbalada
 ブラウンが私財を投じて育て上げた打楽器軍団。カンヂアルを地元とする彼らは、
ブロッコ=アフロとして出発しても不思議ではなかったが、総帥ブラウンの頭脳に
は、既成の枠組におさまらない斬新なコンセプトが渦巻いていたの。看板ボーカル
が次々と独立し、メンバーも音楽的指向性も大きく様変わりした。しかし、ぐりぐり
ボディ・ペインティングは今も健在である。
 詳しくは、「アシェー三昧」の三月三日の欄をご覧ください。

1st album:「Timbalada」 (邦題「ストリートパワーの逆襲」)
 多くを語るまい。語り尽くせないから。プリミティブでアバンギャルド。変幻自在
のリズム感。ブラジル全土を、そして世界をあっと言わせた衝撃的デビュー作。とに
かく聴いてください。ジャケットが秀逸。

2nd album:「Cada Cabeca e' Um Mundo」 (邦題「頭の数だけある世界」)
 こちらもユニークなジャケット。1st albumに収まり切らなかったエネルギーを、
そのままぶつけた作品。6曲めの「Camisinha」は「コンドームをつけてエイズを防
ごう」と歌っている。

3rd album:「Andei Road」
 1st、2ndほどの衝撃を感じなかったのは、更なる刺激を求めてしまうファンのわが
ままだったのだろうか。しっとりした感じの曲が多い。1曲目「Mimar Voce」、
8曲目「Margarida Perfumada」など、じっくり聴き込むとよい曲がたくさんある
のだが、総じて物足りなく感じたことは正直に告白しておこう。

4th album:「Mineral」
 5曲目「Agua Mineral」は路上で水を売る歌。貧しかったブラウンは、子供の頃
それで家計を助けたという。この曲がかかると、バイーア衆は文字通りの「ブラウン
運動」を繰りひろげる。6曲目「Carimbolada Soul」も独特の味わいがあって聞き
逃せない。
 カリスマ的人気を誇ったシェシェウのボーカルが聴けるのは、この作品まで。

5th album:「Mae de Samba」
 進化し、深化したチンバラーダの真骨頂。この一枚をベストに推す人も多い。神話
的な美しさを感じさせるジャケットも秀逸。海の女神イエマンジャーを讃える1曲目
から、エンジン全開で聴かせてくれる。3曲目「Ai」、8曲目「cordao de Bloco」、
9曲目「Mae de Samba」、14曲め「A Latinha」等、たくさんの曲がカルナヴァル
定番ソングとして定着した。他の曲もすべて粒ぞろいである。

6th album:「...pense minha cor...」
 女性メイン・ボーカルのパトリシアが抜け新しく3人のボーカルが参加。3曲目の
"Zorra"は、2000年のカルナヴァルで最も多く歌われた曲だ。7曲目「Plugado 
na Viola」を歌っているのは、なんとアキラという名の日本人。日本語の台詞まで
ついている。(アキラはその後独立した)

  [チンバラーダには、ほかにもリミックス盤やベスト盤、ライブ版等があるが、
  ここでは割愛する]


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*ブラガダー   Bragada
1st album:「Bragada」
 キレの良いホーンが特徴的。ノリの良い曲を満載しており、ユニークなファッショ
ンとも相俟って、話題を集めた。ポスト・チンバラーダと期待されたが、2nd album
以降は伸び悩んでいる。バイーアで生き残るのは大変なのである。
 その後、リーダーだったトニー・モラが抜けて「Braga boys」という名前に変わり、
活動は継続しているらしい。2001年のカルナヴァルに参加した人から、そのトニーが
チンバラーダのアバダーを着て、一般人にまぎれてブロコの中を歩いていた」という
話を聞いた。
 一般人が華々しくデビューするのも、逆にスターが一般人に戻るのも、垣根が低い
ということだろうか。


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*シモーネ=モレーノ   Simone Moreno
1st album:「Simone Moreno」
 95年の大阪公演を観に行った人には説明無用だろう。歌唱力は抜群だし、美しく、
優雅で、愛くるしい個性、踊りも笑顔も圧倒的な魅力であった。筆者はこの時、魂を
抜かれた。

2nd album:「Morena」
 一作目よりもはるかに充実した内容の作品。優美さと、怒涛の勢いが両立してい
る。6曲めの「Irene」、11曲目のメドレー等は、アシェー音楽の枠に収まらない
卓越した実力を感じさせる。このころまでダニエラの次のアシェー・クイーン候補と
思われていたのだが、ペペウ・ゴメスとの破局後は苦しんでいるようだ。
 3rd album以降は、路線を変えて伝統的なサンバを中心に歌っている。


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*ヂダー   Dida Banda Feminina
1st album:「A Mulher Gera o Mundo」
 オロドゥンを復興させ、Samba=Reggaeのムーブメントを育て上げたネギ−ニョ=
ド=サンバが、次に手がけたのが女性だけで編成されたこのバンド。私財を投げ打っ
て立ち上げた「DIDA音楽学校」の教え子たちが演奏している。
 ネギーニョは、自身の露出度はそんなに高くないが、間違いなくバイーア音楽の
屋台骨を支えるひとりである。有名ミュージシャンへたくさんの曲を提供している
ことやオロドゥン、ヂダーの成功だけがそうさせたのではない。
 彼の心は「慈愛」で満ちている。彼はいわば、バイーアの精神的支柱なのである。
 トロピカリスモの「カエターノ/ジルベルト/ガル=コスタ」のあとを受け継いだの
が、アシェー音楽の「ブラウン/ネギーニョ/ダニエラ」なのだと言っておこう。



このほかにも、
 *ネッチーニョ         Netinho
 *マルガレッチ=メネーゼス   Margareth Menezes
 *イヴェッチ=サンガロ     Ivete Sangaro(バンダ=エヴァから独立)
等のソロ歌手や、
 *シェイロ=ヂ=アモール    Cheiro de Amor
 *アサ=ヂ=アギア       Asa de Aguia
 *バンダ=エヴァ        Banda Eva
 *バンダ=ベイジョ       Banda Beijo
 *バンダ=メル         Banda Mel
 *シクレッチ=コン=バナナ   Chiclete com Banana
等のバンドを挙げなければならないだろう。
(ボラッシャ=マリアはどうなったのだろう?誰か教えてください)
 彼らについては断片的な知識はあるものの、CDを聴き込んでいないので、ここで
は割愛させていただく。
 あと、ブラウンの作品が大半を占めている「ブラジレイロ」や、いくつものバンド
が競作した「バイーア・コンスピレイション」「Bahia Black」などのCDも、これ
まで紹介したもの以上に注目に値する。くわしく解説するだけの知識がないことを
残念に思う。
 幾つかのバントのヒット曲を集めたCDやビデオクリップ集の「AXE Bahia97」
「同98」「同99」「同2000」という定番シリーズもある。このシリーズは手軽に
楽しめるので、初心者にも馴染みやすいだろう。

 最後に、注目すべき若手の作品として、
 *アズ=メニーナス   As Meninas
  「Xi Bombom」
 *ウンビリカル   Umbillical
  「Umbillical」
の二つを推しておく。いずれも2000年デビューのバンドである。

 前者は下火と言われるアシェー音楽の中で、去年最も健闘したバンドである。若く
て美しい女性たちを結集し、お洒落な振り付けで踊るさまはキャンディーズ=ピンク
レディー路線と勘違いされかねないが、間違いなく実力派である。一度、野外で行な
われた無料ライブに参加したことがあるが、バイーア定番ソングに頼らず持ち歌だけ
で大観衆を熱狂させていたのには感心した。ボーカルの力量もさることながら、サイ
ドの演奏者たちの腕の確かさにも舌を巻いた。3月にカルナヴァル・デビューした時
にはさほど注目されていなかったが、瞬く間に全国区に駆け上がり、ブームを巻き起
こした。ちびっ子ファンが多いのも特徴的。
 早々と2nd album「tapa aqui, descobre ali」を発表したが、これは「前作の
出がらし」という感が強く、拙速だったのではないかと心配である。チンバウ担当の
Titiを個人的に応援しているので、なんとか踏み止まってほしいのだが。
 
 後者は現地でさえまだまだ無名でありCDを探すのが困難な状況であるが、豊かな
可能性を感じさせる。ブラウンの申し子として一つの分野を確立するだけの力量はあ
るだろう。将来が楽しみである。5年後に残っているのは、むしろこちらのほうでは
ないだろうか。



・・・・・・・
 最後に、関西在住で、ここで紹介したCDを購入したい方のために、アメリカ村の
ワールド・ミュージック専門店
     「プランテーション」(tel:06-4704-5660)
をお勧めする。
 店鋪は小規模だが、アジア、アフリカ、南米等の音源に関してはタワーレコードや
HMVなどの大型店よりも充実している。店長の丸橋さんは事情通だし非常に親切な
方なので、相談に乗ってもらうとよい。頼めば試聴させてもらえるかもしれない。
 筆者の音源供給源はここである。拙文に関心を寄せてくださった方は、ぜひ一度
足を運んでみてください。

 ついでに、関連書籍もいくつか紹介しておこう。まずは、板垣真理子さんの写真
集 「Carnaval in Black」(三五館/1800円)と、紀行ルポルタージュ「バイーア
・ブラック」(トラベルジャーナル/2000円)。どちらもバイーアの魅力が満載の、
至宝のごとき作品だ。
 昨年SHINKO MUSICから出版された「ブラジリアン・サウンド」は、詳細かつ
広汎な情報が満載である。2400円。1995年に発売された「ブラジリアン・ミュ
ージック」と、その続編の「ブラジリアン・ミュージック2001」中原仁編(音楽
之友社/ともに1900円)も外せない。
 「月刊ラティーナ」がもっとも確実で信頼できる定期刊行物であることは、言う
までもない。よりマイナーな雑誌「AMBOS MUNDOS」も面白そうだ。6号に掲載
されたブラウンのインタビュー記事は、ブラウンの魅力を的確に捉えていたと思う。
この記事を担当した宇賀神朋子(うがじん・ともこ)さんというフォトグラファー兼
ライターは信頼できる。今後、彼女が発信する情報は要チェックだ。
 ポルトガル語が読める人なら「A TRAMA DOS TAMBORES」がベストだろう。
副題は「A MUSICA AFRO-POP DE SALVADOR」。ポル語初心者の筆者には到底
読みこなせないが、写真とキャプションを見るだけでもわくわくする。著者はGoli 
Guerreiroという人で、"editora 34" という出版社から出ている。日本で買えるか
どうかはわからない。


2001年3月23日

written by "AXE Junkie"

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